ワイヤーレーザーメタルデポジション(DED)方式を採用した金属3Dプリンターの開発を行うスペインの金属3DプリンターメーカーMeltio社は、エンジニアが金属部品を手頃な価格で、より安全かつ簡単に造形できる「Meltio M450」を2020年に発表しました。
さらに2023年には、スペイン国内の中小企業大賞を受賞したほか、2024年には「Meltio M450」の改良型で、性能や作業効率を向上させた新製品「Meltio M600」を発表。
Meltioは設立からわずか5年間で世界中で300台以上もの金属3Dプリンターの導入実績を誇り、60か国以上の自動車、航空宇宙、石油・ガス、鉱業、研究および教育機関で使用され注目を集めています。
今回の記事では、Meltio社が提供する技術や同社が注目を集める理由について解説します。
「3D PRINTING INDUSTRY」に掲載されたMeltio社CEOのエンジェル・リャベロ氏のインタビューによると、現在、鋳造・鍛造および機械加工に関わる金属部品の世界的な市場規模はおよそ3兆ドル(500兆円)にまでのぼるとされています。
また、Meltio社が取り組む金属部品の製造および修理分野での主要な競合相手には、従来の伝統的な製造技術、具体的には鋳造、鍛造、および機械加工業が挙げられており、前述のリャベロ氏は、これまで業界を牽引してきた伝統的な技術や製法に対するMeltio社の技術の優位性を考えると、この市場においても躍進を遂げられるとも述べています。
Meltio社が優位性を自負する技術とは、ワイヤーDED方式を採用した金属3Dプリンティングです。レーザーエネルギーを使用して金属ワイヤーを溶かし、連続的に層を形成し部品を造形していきます。従来製法やPBF方式の金属3Dプリンティングと比較すると、材料の無駄が少なく、コストを抑えることが可能です。また、造形物の密度も99.998%になるということもわかっています。
対応する材料は、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、インコネルなど幅広いうえに、機械による造形は24時間365日ノンストップでの稼働を可能にするため、俗人化しない生産体制でいつでも造形可能な環境をMeltio社は提供しています。
実際に、これまで世界中で導入された300台のうち、およそ1/3にあたる98台が新型コロナウイルスのパンデミック下で導入されたものでした。未曾有のパンデミックによる予測不可能な状況でも、サプライチェーンへの依存を減らし、コンスタントな生産材料の切替にも対応できるMeltio社の技術力が発揮されたケースであると考えられます。
Meltio社のCEO・リャベロ氏は積層造形の分野が製造業としての従来の姿を維持し続けるか、革新的な産業技術として進化するかの転換期にあるとし、今後もシェアの拡大が予想され、シフトチェンジが起きるだろうと述べています。同時に、ワイヤーを使用した積層造形は材料のコストが低く、金属材料を安全に使用できることに加え、材料の入手しやすさという理由から、PBF方式からDED方式金への移行がさらに進むとも予測しています。
また、技術革新が進む業界としては自動車、石油・ガス、航空宇宙、鉱業、防衛などの分野が挙げられますが、個人規模でも、オーダーメイドの義足が市販の義足と同程度のコストで生産可能になると予測しており、Meltio社が提供する技術により製造業は民主化し、選択肢の増加が期待されています。
Meltio社の技術はさらに効率向上を見込んでおり、リャベロ氏は、システムのエンドプロセスまたは部品の製造時間をおよそ80%削減、また、特定の工程では材料の削減を50%から70%減少できると述べており、今後もさらなる技術革新が期待されます。
このように、サプライチェーンに大きく依存しない材料を用いながら無駄の少ない溶接による造形方法が効率的であることは、新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけにシェアを拡大したMeltio社の例が示す通りです。さらに、ノンストップで稼働可能でかつ昨今の物価高などの影響も受けにくい製造方法は、変数を最小限にとどめ、柔軟性を製造業にもたらし、今後のトレンドとしてさらに加速していくことが考えられます。
「Meltio M600」は、先行機種の「Meltio M450」と比較し造形面積が約4倍になり、鍛造品相当の強度をもつ、より大きな金属部品を造形できます。また、チャンバー内をアルゴンガスで満たすよう設計されているため、より安定した造形を提供します。さらに、ホットワイヤー対応に加え新たにブルーレーザーが搭載されたことで造形速度が速くなり、また使用できる材料の選択の幅も広がります。加えて、部品1個あたりのエネルギー消費量が大幅に削減されコスト削減を実現します。
先行機種と比較すると作業効率もはるかに上がっています。これまでは、プレートを設置するのに労力をかけていましたが、「Meltio M600」ではスライド式で設置できるため簡単に取り外しが可能です。新しいカメラ機能では、造形の様子が鮮明にわかるためリアルタイムで監視ができます。加えて、ワイヤーカット機能により異なる材料を使用する際に安定した造形を提供するほか、ワイヤーのアライメント調整が不要になるなど「Meltio M600」は金属部品の造形を容易にしました。
「Meltio M450」には金属3Dプリンターに必要なすべてが準備されているため、使いやすく、誰でもすぐに造形をはじめられます。使用する金属ワイヤーはMIGワイヤーなどの既成材料を含め、ステンレスやチタンなど様々な材料に対応しています。さらに、鍛造品相当の強度をもった小~中サイズの造形が可能で、バイメタル製品の研究にも最適です。厳格な設置要件のある周辺設備や保護具を必要としない高い安全性があるので、初めて金属3Dプリンターを導入する企業や大学などの教育機関にもおすすめです。
稼働に必要な付帯設備を全て揃えた「Meltio Robot Cell」。これにより、導入後、自社によるセル構築のための設計や準備、セキュリティインターロックの設計、各種配線工事などといった準備工程が不要になり、すぐに必要な部品を製造することが可能になりました。付属のMeltio Engine Robotは、鍛造品相当の強度をもった大型サイズ(1m以上)の部品や製品の造形、修理、クラッディングに最適な3Dプリンターです。製造時間短縮をはじめ、人員不足やコスト削減など、多くの課題解決が期待されます。
・Meltio社の最新金属3Dプリンター「Meltio M600」に搭載のブルーレーザーを深堀り
・ワイヤーDED金属3Dプリンターで成形サイクルの冷却時間を半減する方法 | 3次元水管金型を造形するメリット
・異種金属接合、バイメタルとは | 金属3Dプリンターでバイメタル部品を造形するメリットを造形品とともにご紹介
・PBF方式(粉末床溶融結合方式)とDED方式(指向性エネルギー堆積法)の用途やメリット、デメリットをご紹介
・金属3Dプリンターの造形方式と材料の種類、選定ポイントを解説
・金属部品の修理における金属3Dプリンターの活用方法と実践事例
・ダイキャスト金型のコンフォーマル(形状適応)冷却チャネルでの冷却性能評価とAMプロセス
・金属3Dプリンターとは?造形方式の種類とメリット、デメリットを解説
3DPCでは、金属・樹脂合わせて10種類以上の3Dプリンターを取り扱っており、知見や経験が豊富な社員のもと、設計・開発から、製造、後加工、品質評価まで一貫したサービスを提供しています。また機器のご紹介も行っており、ご購入後は、1日から2日間のトレーニング、修理、メンテナンスのサポートを実施しております。
具体的なイメージが持てるように、3Dプリンターやフィラメント製造機、表面処理装置、造形品などを見て触ることができる工場見学を開催しております。ご興味のある方は是非お申込みください。