射出成形は、プラスチック製品業界において、大量生産を目的とした最も手ごろで広く普及している製造方法のひとつです。
射出成形には主に4つの工程があります。
① 溶融プラスチックの射出
② 金型内での圧縮
③ 冷却処理
④ 成形品を取り出す
文献調査によると、成形サイクルの約70%から80%もの時間が冷却処理に使われていることがわかりました。品質を保ちながら、より製造効率を向上させるには、最も長い時間を占めている冷却処理にかかる時間が重要なポイントであり、その短縮が成形利益率を上げることにつながるといえます。
この記事では、近年注目されている研究である、射出成形における冷却時間の短縮を実現した、Conformal Cooling Channel(以下「3次元水管」)※1 がもたらすメリット、さらに3次元水管金型をより安価に速く製造できるワイヤーDED方式金属3Dプリンター「Meltio M450」(Meltio社)をご紹介します。
※1: 自由な設計を可能にした金属3Dプリンターを用いて製造する金型の形状に沿った複雑な水管
経済的観点からみると、射出成形金型の製造には多額の投資が必要です。したがって、収益性を最大化するために、金型の寿命をより長くすることが求められています。つまり射出成形金型は、その性能や品質を落とすことなく、何度も成形サイクルに耐えられるものでなければなりません。
冷却工程が成形サイクルのボトルネックであることを考えると、金型内に高効率の冷却流路を持つことは不可欠です。冷却が不十分であったり低性能であることは、最終製品の品質に直結するため、望ましくない変形や収縮を引き起こすなど悪影響を及ぼします。従来の冷却流路は、製造は簡単なものの、金型形状におけるプラスチック製品の複雑な形状や輪郭に正確に適合しないため過度に長くなってしまい、温度のばらつきが生じます。このばらつきが最終製品の品質に影響を与える一因です。
この課題を解決するために、3次元水管の研究が注目されています。
3次元水管は、射出成型に変革をもたらすゲームチェンジャー※2 で、4つの利点があります。
① 構造的完全性※3 の強化
② 効率的な熱放散
③ 成形サイクルの時間短縮
④ 成形部品の品質向上
※2: 既存の状況や考え方を大きく変える存在
※3: 製品が、自重を含む荷重を受けても壊れたり過度に変形したりすることなく保持できる能力
一般的に、冷却工程を管理する上で重要なのは、冷却時間と冷却性能の2つです。
まず、冷却時間を短縮することは、冷却処理の工程の向上として、最も望まれています。これは製品の変形や収縮のリスクを軽減すると同時に、より短い時間での成形サイクルを実現し、さらに高い生産率を可能にします。
2つ目の冷却性能は、主に金型の材料特性と冷却用途によって向上可能です。これらのうち、金型材料の特性については、熱伝導率の値よりも主に強度、重量などの機械的特性が優先されて決定されるため、実用的用途における性能向上の要因とは考えられていません。そのため、主に冷却用途が性能向上の要とされています。
複雑なプラスチック製品とは、製品内の曲線の難しさによって定義されています。このような曲面を、直線に穴のあいた冷却流路に沿わせるのは非常に困難です。その結果、冷却時間が長くなるだけでなく金型表面温度が均一でなくなるため、製品の品質が低下し、不良品につながります。
これまで、流路間隔、流路径、流量、流路を循環する冷却材の熱特性などを最適に設定することで、冷却性能を向上させてきました。しかし、複雑なプラスチック製品では、流路や機械加工の設計上の制約から、前述の方法だけではまだ不十分なことがあります。
そこで、射出成形における冷却性能を向上させる画期的な解決策として、冒頭で紹介した3次元水管が注目されています。3次元水管は、金型の形状やプラスチック製品の輪郭に沿って、より効率の良い冷却流路を精密に設計することを可能にしました。これにより冷却時間が短縮されるだけでなく、金型表面温度の均一性を高め、冷却性能を飛躍的に向上させます。
Meltio社のワイヤーDED方式金属3Dプリンター「Meltio M450」は、格子構造からなる3次元水管を配置した射出成形金型の製造を可能にし、工業生産の領域にこれまでにない成形サイクルを提供します。格子構造によって金型の全体的な構造的完全性を高めるだけでなく、射出成形工程での効率的な熱放散を促進します。これにより、正確な温度制御が可能になり、成形サイクルの時間を短縮し、成形部品の品質と一貫性の向上が可能になります。
さらに「Meltio M450」は、3次元水管を配置した射出成形金型を、従来の金型よりも安価に速く造形できます。
今回の研究では、CAE解析を用いて、従来の金型に比べて冷却時間を約50%短縮し、成形利益率を約55%向上させる可能性を示しました。この結果は、新たに設計された金型のシミュレーション上で得られたものであり、実際の製造プロセスでの実現性については今後の検証が必要です。
基本的に、3Dプリンティング技術は3次元水管と相性が良いですが、この技術によって射出成形工程における効率、費用対効果、性能向上を促進し、製造におけるこれまでの固定観念を覆します。
3Dプリンティング技術を活用して製造する射出成形金型における3次元水管のメリットを評価するため、2つの金型サンプルの熱流体シミュレーションを実施しました。
画像左は穴あけ加工による従来の冷却流路を配置した金型、右はジャイロイド格子構造からなる3次元水管を配置した金型です。シミュレーションには、Autodesk Fusion 360ソフトウェアを使用しました。
熱流体シミュレーションでは、射出成形の工程を最適化するために金型の温度を効率的に管理することに重点を置いています。シミュレーションで設定した熱負荷は、射出された溶融プラスチックの推定温度に相当する80℃を金型表面温度とし、それぞれの冷却流路に最適な冷却水の温度を20℃としました。
両方の金型に同じパラメーターを使用した結果、3次元水管を配置した金型の方が優れた熱流動を示すことが判明しました。熱流に関しては、数値が高いほど熱伝達率が高いことを示しており、溶融プラスチックから冷却流路内の冷却材への熱伝達が促進されている可能性が考えられます。さらに格子構造にすることで、界面表面積と冷却材の流れを増加させるため、円形の冷却流路に比べても熱伝達率を向上させることも観察されました。このことからも、成形サイクルの間の金型の冷却性能は、生産性の向上、溶融プラスチックを凝固させることによる成形部品の品質向上に有益であることがわかります。
この研究では、3次元水管を持つ金型が、より均一な温度分布を示すことも明らかになっています。
高い熱伝達率をもつ3次元水管は金型内の温度をより一定に保つことに貢献しており、その結果、金型表面温度の均一性が向上し、成形部品の品質がより安定しました。加熱された界面の温度勾配が非常に低いことが明示されたことで、このような3次元水管は、熱バランスが重要な射出成形金型の用途に最適である可能性が見込まれます。
3Dプリンティング技術を活用して製造する3次元水管を配置した射出成形金型は、その形状やプラスチック製品の輪郭に沿ってより効率の良い冷却流路が設計できるだけでなく、金型表面温度の均一性を改善し、今までにない生産性の向上を実現することがわかりました。従来の冷却流路を配置した射出成形金型と比較しても、かつてない成形サイクルの向上と費用対効果をもたらし、プラスチック射出成形に変革をもたらします。
Meltio M450には金属3Dプリンターに必要なすべてが準備されているため、使いやすく、誰でもすぐに造形をはじめられます。使用する金属ワイヤーはMIGワイヤーなどの既成材料を含め、ステンレスやチタンなど様々な材料に対応しています。さらに、鋳造品以上の強度をもった小~中サイズの造形が可能で、バイメタル製品の研究にも最適です。厳格な設置要件のある周辺設備や保護具を必要としない高い安全性があるので、初めて金属3Dプリンターを導入する企業や大学などの教育機関にもおすすめです。
・メール経由:info@3dpc.co.jp
3DPCでは、金属・樹脂合わせて10種類以上の3Dプリンターを取り扱っており、知見や経験が豊富な社員のもと、設計・開発から、製造、後加工、品質評価まで一貫したサービスを提供しています。また機器のご紹介も行っており、ご購入後は、1日から2日間のトレーニング、修理、メンテナンスのサポートを実施しております。
具体的なイメージが持てるように、3Dプリンターやフィラメント製造機、表面処理装置、造形品などを見て触ることができる工場見学を開催しております。ご興味のある方は是非お申込みください。
参照
1. Santos, Mailan. Fabricación Aditiva En Acero Para Herramientas H11 de Útiles Para Moldeo Por Inyección: Verificación de La Conformidad. 27 Nov. 2023, p. 190.
2. B. B. Kanbur et al., «Metal Additive Manufacturing of Plastic Injection Molds with Conformal Cooling Channels», Polymers (Basel), vol. 14, n.o 3, p. 424, ene. 2022, doi: 10.3390/polym14030424.
3. Plastics Technology, «Why Conformal Cooling Makes Sense. » Accedido: 26 de noviembre de 2023. [En línea]. Disponible en: https://www.ptonline.com/articles/why-conformal-cooling-makes-ense
4. M. Mazur, M. Leary, M. McMillan, J. Elambasseril, y M. Brandt, «SLM additive manufacture of H13 tool steel with conformal cooling and structural lattices», Rapid Prototyp J, vol. 22, n.o 3, pp. 504-518, abr. 2016, doi: 10.1108/RPJ-06-2014-0075.
5. S. Feng, A. M. Kamat, y Y. Pei, «Design and fabrication of conformal cooling channels in molds: Review and progress updates», Int J Heat Mass Transf, vol. 171, p. 121082, jun. 2021, doi: 10.1016/j.ijheatmasstransfer.2021.121082.