コスト削減や材料選択の幅広さから、ペレット方式の3Dプリンターが注目を集めています。この記事では、ペレット方式の3Dプリンターの仕組みや特徴を詳しく解説し、フィラメント方式と比較したメリット・デメリットをわかりやすくまとめました。また、利用時の注意点についても触れていますので、造形時の参考にしてください。
樹脂ペレットを材料とし、熱溶融顆粒製造方式(FGF:Fused Granular Fabrication)によって造形を行う3Dプリンターです。この方式では、射出成形に使用する樹脂ペレットを活用するため、コスト面でも有利とされています。また、ペレット方式は、材料押出法(MEX:Material Extrusion)や熱溶解積層方式(FDM:Fused Deposition Modeling)の原理に基づいて造形を行います。
従来の3Dプリンターでは、フィラメントが主な材料として用いられてきました。フィラメント溶解製造方式(FFF:Fused Filament Fabrication)では、直径1.75mmまたは2.85mmの細い樹脂を加熱して溶かし、造形に使用します。フィラメントは熱可塑性の樹脂ペレットを細い繊維状に加工して製造され、加熱時に均一に熱を伝えられるため、造形精度が高い点が特徴です。
但し、フィラメント方式には課題もあります。樹脂材料が硬いと折れやすく、柔らかいと変形しやすいなど、取り扱いには工夫が必要です。また、フィラメントは湿気や温度に敏感で、保管中の品質管理が求められます。そのため、実際に使用できる樹脂材料の種類は限られています。
一方、ペレット方式の場合は、多様な樹脂材料が利用可能で、運搬中の品質低下リスクも少ないため、材料の選択肢が広がります。但し、ペレットは粒状の形状をしているため、MEX方式やFDM方式で造形する際には、精度を保つために条件設定や品質管理が重要となります。
ここでは、フィラメント方式との違いに触れながら、ペレット方式3Dプリンターを使用する際のメリットを解説します。
ペレット方式の最大のメリットは、使用可能な樹脂材料の選択肢が豊富なことです。射出成形に使用されているさまざまな樹脂ペレットをそのまま活用でき、フィラメント方式では扱いにくい硬い材料や柔らかい材料も使用しやすくなります。
ペレット方式は、材料コストを抑えられるというメリットがあります。フィラメントはペレットを加工して製造されるため、ペレットそのものよりも高価になることが多いですが、ペレットは量産されているため、比較的安価に入手できます。これにより、経済的な製造が可能です
ペレット方式の3Dプリンターは、一般的に造形速度が速く生産性向上が期待できます。例えば、WASP社の「4070 HDP」では150mm/sの造形速度を実現しており、フィラメント方式の約50~100mm/sと比較しても効率的です。そのため、ペレット方式3Dプリンターは製造時間を短縮し生産性を向上させます。
ペレット方式の3Dプリンターには、大型造形に対応しているモデルも存在します。たとえば、Caracol社の「Heron AM」は、4m × 4m × 3m(搭載するロボットアームによって変動)の造形が可能で、システムの拡張次第で最大幅12mまで対応可能です。これにより、大型部品の製造や建設分野での利用も視野に入ります。
ペレット方式は、低コストで速い造形が可能なため、製造業における大量生産に特に適しています。消耗品や部品の大量生産に加え、プロトタイプなどの効率的な製造が実現します。この方式は、精度と品質を保ちながら生産コストを削減できるため、製造業の競争力を高める一助となります。また、大量生産のニーズに応じた柔軟な材料選択が可能で、さまざまな用途に応じた製品を迅速に市場に投入できます。
持続可能な社会に向けて、環境負荷を抑える取り組みが求められる中、ペレット方式3Dプリンターは環境にやさしい選択肢です。WASP社のペレット方式3Dプリンターは、リサイクル樹脂やバイオプラスチック由来のペレットが使用されており、持続可能な材料選択が可能です。一方、Caracol社の「Heron AM」でも、リサイクル材料や環境に配慮した材料への使用が推奨されており、より持続可能な生産方法を提供しています。このように、ペレット方式3Dプリンターは、環境への配慮を重視する方にとって理想的な選択肢となります。
ペレット方式3Dプリンターは、フィラメント方式と比較していくつかのデメリットも存在します。しかし、これらの特性を理解することで、効果的に製品を選択および使用することができます。
ペレット方式3Dプリンターは、一般的に造形解像度が比較的低いという特性があります。この特性は、高精度な造形が求められるプロジェクトにおいて制約となる場合があります。但し、造形解像度が他の方式に比べて劣るということは、必ずしもデメリットばかりではありません。柔軟な材料選択が可能なため、特定のアプリケーションに最適化された造形が行えるメリットも存在します。
ペレット方式では、樹脂ペレットの選択肢が豊富である一方、高品質な造形を実現するには詳細な条件設定が求められます。たとえば、造形温度やヘッドスピードを材料特性に応じて最適化する必要があります。この調整が難しいと感じる方もいるかもしれませんが、経験を積むことで、スキルアップにつながり、より高品質な製品の造形可能になるでしょう。
現状では、ペレット方式の3Dプリンターはフィラメント方式のものと比較して、市場に出回っている製品数が少なく、選択肢が限られています。この状況は、ペレット方式への需要が高まるにつれて変化する可能性があります。新しい技術革新が進むことで、将来的にはさらに多様な製品が市場に登場することが期待されます。
ペレット方式の3Dプリンターは、多様な樹脂ペレットを使用できる点が大きな特徴です。機種によって、対応可能な材料は異なりますが、WASP社の3Dプリンターでは以下の2種類の公式材料を提供しています。
・PLAペレット
・ABSペレット
同社の3Dプリンターでは、他社製の樹脂ペレットも幅広く利用できます。使用できるペレットの種類は型番によって異なりますが、以下のような多様な材料で造形が可能です。
・PLA 100%リサイクルペレット
・PET 100%リサイクルペレット
・ASAペレット
・PLAウッドペレット
・PLASMIXペレット
・RPP(耐衝撃性ポリプロピレン)
・TPU(熱可塑性ポリウレタン)
・PP(ポリプロピレン)
・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)
・PC(ポリカーボネート)
さらに、Caracol社の「Heron AM」でも多様な樹脂ペレットを使用でき、以下のような材料に対応しています。
・PA(ナイロン)
・PETG(グリコール改質PET)
・PC(ポリカーボネート)
・PVA(ポリビニルアルコール)
・TPU(熱可塑性ポリウレタン)
樹脂ペレットには複数の材料を配合した製品も存在し、特定の用途に適した材料を独自に開発して、ペレットに加工して3Dプリンターで造形することも可能です。このような柔軟性は、プロジェクトのニーズに合わせた最適な材料選択を実現し、さまざまなアプリケーションに対応する強力な武器となります。
ペレット方式の3Dプリンターは、様々なメリットがある一方で、使用時にはいくつかの注意点があります。高品質な造形を実現するための重要なポイントを以下に紹介します。
ペレット方式の3Dプリンターを選ぶ際は、具体的な用途に合わせて製品を選定することが不可欠です。以下の要素を総合的に考慮しましょう。
・樹脂ペレットの種類:使用予定の材料を明確にし、その特性を理解することが重要です。
・製品サイズ:製品の大きさに適したプリンターを選ぶことで、最適な造形が可能になります。
・造形解像度:求められる精度に応じたモデルを選ぶことが、品質向上につながります。
・加熱システム:加熱方式によっても造形結果が影響を受けるため、特性を確認して選定しましょう。
たとえば、WASP社の「WASP 60100 HDP」は、スーパーエンプラの造形に優れた性能をもつため、特定の樹脂ペレットを使用する際の信頼性が高い選択肢となります。リサイクル樹脂や特殊なプラスチックを使用する場合は、必ずメーカーや専門業者に事前確認を行い、適合性を把握しておくことが推奨されます。
ペレット方式では、新しい材料での造形に挑戦することが可能です。製造予定の製品に適した物性をもつ樹脂ペレットを見つけるために、以下のポイントを考慮しましょう。
・調達のしやすさ:供給が安定している材料を選ぶことで、製造プロセスを円滑に進めることができます。
・コスト面:資材費を抑えつつ、高品質な造形を実現する樹脂ペレットを選定することが大切です。
選定プロセスでは、少量のサンプルを入手して試作品を作成し、性能を確認することをおすすめします。同じ材料でもメーカーによって仕上がりが異なることもあるため、調達時にはメーカーの特性も考慮に入れる必要があります。
造形する製品の品質は、設計と条件設定に大きく依存します。最初の試作品が期待通りの品質でない場合でも、改善の余地は十分にあります。以下のアプローチを試みましょう。
・試行錯誤:複数の試作品を作成し、設定を調整しながら最適条件を見出すプロセスが重要です。
・新しいペレットの特性理解:初めて使用する樹脂ペレットでは、異なる条件設定が必要になることがあります。テストを繰り返し、調整しながら最適条件を見つけましょう。
ペレット方式3Dプリンターは、射出成型に用いられるさまざまな材料の樹脂ペレットを使用できるのが大きな特徴です。フィラメント方式と比較すると選択肢が広いので、製品に合わせて適切な材料を使用した造形が可能です。但し、材料ごとに条件のチューニングが必要不可欠です。フィラメント方式よりも造形解像度が低くなりやすいため、細やかな設計が求められる場合には、丁寧に最適化を進める必要があります。
ペレット方式は大型の造形や大量生産にも向いており、材料調達も容易なためコストパフォーマンスを上げやすい選択肢です。3Dプリンターの導入・活用の際は、ぜひペレット方式を検討してみてください。
「Heron AM」は、最大4mサイズの製品の造形を可能にし、さらにシステムを延長すれば最大で幅12mまで造形が可能です。造形ヘッド、ペレットの乾燥装置、ソフトウェアなど造形を開始するために必要なすべてが揃っています。また、幅広い高性能ポリマーから複合材料、リサイクル材料まで対応しており、ペレットから直接造形できるため材料費を大幅に削減できます。ペレット材によって生じる表面のざらつきも、付属のツールで削ることで滑らかな表面に仕上がります。
ペレットから直接部品の製造が可能で、廃プラスチックや海洋ごみなどから新しいものを造形した実績がある、環境に優しい3Dプリンターです。ペレットを使用するため低コストで造形が可能となり、さらに使用できる材料も多いため、製造業や研究、材料開発をはじめ、アート、自動車、家具など幅広い分野で活用でき、またリサイクルやSDGsの取り組みに最適です。
・3Dプリンターで樹脂ペレットを活用するメリットと使用できる材料一覧
・3Dプリンターにおけるペレットとフィラメントの違い|メリットとデメリットも解説
・Caracol社のロボットアーム式大型樹脂3Dプリンター「Heron AM」のメリットとは | 事例も紹介
・大型3Dプリンターとペレットを用いてドローン機首の型を短時間で造形 | 従来製法と比較し廃棄物を40%削減!
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