今回は、スーパーエンジニアリングプラスチック(以下「スーパーエンプラ」)に分類され、幅広い特性をバランスよく備えるULTEM™を3Dプリントで活用するメリットをご紹介します。
ULTEMとは、スーパーエンプラに分類され、アルミの半分以下の軽さと高い強度重量比を持ちながら、以下のような様々な特性をバランスよく持つ材料です。
・耐熱性 (耐熱温度180~220℃)と、高温下での寸法安定性
・UL94 V-0規格認証の難燃性と、燃焼時の低煙性・低毒性
・耐UV性、耐候性
・アルコール、酸などへの対薬品性
・高い絶縁耐力
・人体と食品に対する衛生性
これらの特性を持つULTEMは、スーパーエンプラに分類されている他の材料と比べ、比較的安価です。また融点が低いため、製造しやすいのも特徴の一つです。ULTEMが使用されている例として、航空宇宙産業では航空機内のブラケット、自動車産業ではオイルポンプ、石油化学工業では作業工具、医療産業では手術器具、一般消費者向け製品としてはメガネフレームやギターピック等の製造材料として使用されています。
市場に出回るULTEMの種類は、コンポジットなどが混合される種類を含め、100種類以上ありますが、そのうち3Dプリント技術で使用されているのは、ULTEM 9085とULTEM 1010の2種類です。
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ULTEMはスーパーエンプラに分類される材料の中では比較的安価ですが、エンプラや汎用プラスチックに比べると高額で、約15〜20倍の価格となっています。高額な材料を扱うのにも関わらず、従来工法の場合、材料の無駄と余分な工程が発生していました。
機械加工の場合、ULTEMを切削して形状を再現するので、切削される部分が無駄になります。コストの浪費は勿論ですが、地球環境への負荷にもなります。
射出成形の場合、金型を製造する工程が必要なので、余分なコストが発生します。また、ULTEMはプラスチック全体の中では融点が高く、成形時に金型を約175℃まで熱する必要があります。金型が膨張と収縮の繰り返しで徐々に脆くなり、使用できなくなると、その都度金型を新しく製造する必要があります。
3Dプリントの場合、無駄になる材料がほぼ無く、金型を製造する工程が必要ないため、従来工法に比べ費用対効果が高いです。
ULTEMはアルミの半分の重量であることから、軽量化を目的として、アルミ部品の置き換えとして使用される機会が多いです。その場合、ULTEMで従来形状をそのまま造形しても軽量化は達成できるのですが、更なる軽量化を目指す方法があります。その方法のひとつが、ソリッドモデルを、下の写真の右側のモデルのようにインフィル構造に置き換えることです。
従来工法では製造が難しいインフィル構造のような複雑形状は、3Dプリントでは容易に造形ができます。そのため、インフィル構造を取り入れたモデルをULTEMで造形することで、完成した造形物は、ソリッドで造形した場合に比べ軽くなります。
航空会社は、昨今の環境・エネルギー問題の深刻化により、機体を製造する上での資源の無駄を削減することや、機体の総重量の軽量化が求められています。エアバス社は、3Dプリントを活用し、ULTEM部品を機体内部に実装しています。
当社は、A350の実装部品の材料に、ULTEM 9085を活用しています。100種類以上あるULTEMの中、9085を使用する理由は、9085が軽くて丈夫で、難燃性、燃焼時の低煙性・低毒性の認証を持つことは勿論ですが、最大の理由は、当材料が3Dプリントできることです。従来品を3DプリントしたULTEM品に置き換えることで、資源の無駄が最も少ない方法で機体の軽量化を達成できます。
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弊社で取り扱いがあり、ULTEMが使用できる3Dプリンターをご紹介します。
Markforged社の最新商品、FX20は、ULTEMにカーボンファイバ一を入れ込んで造形できることが特徴です。カーボンファイバーを入れることで、造形物が更に軽量化され、機械的特性も増します。
・対応材料:ULTEM 9085、Onyx、ナイロン、PLAなど
・造形ベッドサイズ:525×400×400 mm
[参照元]
高機能プラスチックとは
プラスチックの特性
Sabic社ウェブサイト
Ready Printの高機能プラスチックフィラメントで造形工程がシンプルに
エアバス機内で実際に採用されているULTEM部品
PEIはどのくらい高いのか
なぜ3Dプリンターで造形するのがよいか
UL94認証に関して
ULTEMの特徴とアプリケーション
ULTEMでの造形時の工夫
DfAMを活用する
DfAMとは